“エアー断震”という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?
私は先日テレビでこの言葉を知りました。
それまで知っていた地震対策の構造は「免震」「制震」「耐震」の3つだけでした。
ごく最近開発された構造なのかと思いきや、2011年の東日本大震災のときには既に導入していた建物もあったそうです。
しかもその建物は地震による被害は無かったとか…(✽ ゚д゚ ✽)
エアー断震
エアー断震は“断”震の文字が表すとおり、地震の際に改良地面盤と住宅基礎が「分断」される構造になっています。
緊急地震速報と同じ仕組みで、地震の大きな揺れがくる数秒前にセンサーが初期微動を感知するとコンプレッサーが動作し、建物の基礎とその下にあるコンクリート板の間に圧縮空気を送り込みます。
これにより建物が浮上し、地面との縁が切れるため地震の影響を受けにくくなります。
当然ですが、地震の際に揺れているのは地面であり、地面に対して基礎で繋がっているため建物が揺れるわけです。
エアー断震の考え方は、地面と建物を切り離すことで地面の揺れによる建物への影響を限りなくゼロにしようというものです。
仕組みについて
エアタンク内に溜め込んでいた圧縮空気を使用して建物を一気に浮上させ、浮上開始までに要する時間は0.5秒程度です。
浮き始めるまでの時間は0.5秒ほどですが、所定の位置まで浮き上がるのは数十秒かかるそうです。
建物が浮上して基礎と改良地面盤を切り離してしまえば揺れの影響をほとんど受けないため、浮上完了までの時間が多少かかっても問題ないということなのでしょう。
また、停電時でも動作出来るようにバッテリーを備えており、エアタンクも数回分の浮上に必要な分の空気を溜め込んでいます。
改良地面盤と住宅基礎の間に空気層を発生させることで建物を浮上させる仕組みですが、この空気層は密閉されているわけではないので時間とともに徐々に空気が漏れていき、浮いてから1分半ほど経過すると元通りに接地します。
接地時にまだ地震が続いていれば再度建物が浮上します。4回ほど浮上可能なくらいは圧縮空気を溜めているらしいので、4回x1分半で計6分は浮いていられます。
この仕組みを調べて思ったのは「エアホッケーみたいやな」でした笑
ゲームセンターに置いてあるエアホッケーゲームもパックをエアーで浮かせているのですが、私の貧困な発想力ではこのくらいしか似たようなイメージのものが思い浮かびませんでした(^_^;)
建物を浮上させるのが空気なので建物の自重によっては水平に持ち上がらないことがあるそうです。
その対策として水平維持用のバランサーが住宅基礎の下に仕込まれています。
また、浮上後の接地時に元の位置からずれてしまうことを防止するために「スプリングによる位置戻し装置」も備え付けられています。
実大実験
つくばの防災科研で実物大建物で実験を行ったそうです。
動画を見ていただければ一目瞭然ですが、置いてある液体と建物との揺れの違いが凄いです。
液体は大きく揺れているのが見て取れますが、建物は殆ど揺れていないようにみえます。
法適合
建築基準法上、基本的に「基礎は建物に緊結」されている必要があります。
“基本的に”と書いたのは、通常の免震装置はゴムや鋼球の上に建物が載っていて基礎に緊結されていないため、上記の基準に当てはまりませんが、特別認可を受けているため違法になっていません。
エアー断震も2019年4月に国土交通省が認可したことで、免震装置同様に特別認可を受けたことになり、今後普及していくことが予想されます。
価格
テレビではエアー断震を導入するには500万ほどかかると言っていましたが、ネットで調べると300万円台で施工出来ることろもあるようです。
通常の基礎工事と比べると高くなっていますが、建物本体にかける地震対策費用が抑えられるので、家全体にかかるコストのトータルでみると価格差はそこまで大きくならないのではないでしょうか。
懸念点
もしこのシステムを導入するとしたら、個人的にいくつか懸念点がありますので以下に列挙していきます。
・長周期地震動
地震が起きると様々な周期を持つ揺れ(地震動)が発生します。ここでいう「周期」とは、揺れが1往復するのにかかる時間のことです。南海トラフ地震のような規模の大きい地震が発生すると、周期の長いゆっくりとした大きな揺れ(地震動)が生じます。
気象庁のHPより引用
このような地震動のことを長周期地震動といいます。
東日本大震災では本震の地震動が東日本全域で6分以上継続したという記録も残っています。
6分というと上記の浮上していられる時間より長いです。規模が大きい地震ほど本震の継続時間も長くなるそうですので、大規模地震に対する浮上継続時間は改善の余地有りだと思います。
・縦揺れ
横揺れに対しての効果は動画等でも分かるとおりにイメージ出来るのですが、縦揺れに対しての効果は少し心配です。
縦揺れが生じると、地面が浮上中の建物との間の空気そうに対して突き上げてくるため、空気の漏れが早くなるのではないかという点と、建物が空気層によって突き上げられて振動がダイレクトに伝わってくるのではないかという点です。
空気層がクッションのような役割を果たすような気もしますが、空気層自体は制御できる部分ではないので実際にどう働くか読めない部分もあります。
・メンテナンス性
振動を検知するセンサと圧縮空気を溜めるコンプレッサーがこのシステムの肝となるので、これらの機器が故障していると元も子もありません。
そのため、故障検知やメンテナンスは必須でしょう。
そして、メンテナンスにかかる費用とその頻度についてはあらかじめ業者に確認しておく必要があります。
初めてエアー断震システムを聞いたときは「凄い!うちもこのシステムがいい!」と思いましたし、今でもその考えは変わっていません。(既に基礎工事に着手しているので採用は無理ですが…💦)
技術的に成熟はこれからだとは思いますが、地震の際に地面との縁切りは理に適っていると思いますし、地震大国といわれる日本でこの構造が一般的になればいいなと思っています。